ほんの記憶8:朽ちるマンション 老いる住民(朝日新聞取材班)
マンション管理適正化法が改正され、同法に基づく管理計画認定制度が昨年度から施行された。私有財産であるところのマンションの管理を行政が評価するという画期的な法律なのだが、マスコミの動きがにぶい。マンション管理の問題は地味に進行する。わたしも新聞記者を30年やったが、このテーマで記事を書いたことは一度もない。読んだ記憶もほとんどない。ニュース性は乏しいと言わざるを得ない。いや、ニュース性がないのではなく、簡単にはわかりにくい課題なのである。キャッチ―な見出しもつけにくい。要は「あまりウケないネタ」なのだ。
わたしがセミナーや講演会などで話すのは、2020年に市が県野洲市で行われた史上初の行政代執行による廃墟マンションの処分である。区分所有者は行方不明となったり相続放棄によって住むものがいなくなったマンションを約1億2000万円かけて解体した。更地にして売却したが約8000万円ほどの手出しとなった。全額が税金である。このようなことが続けば地方財政はもたない、個人財産の処分にどうして税金を使うのかといった批判もわき上がるだろう、そういう話をするとようやく報道関係者はようやく「ははあ」という顔をするのである。
「朽ちるマンション 老いる住民」はいわゆる“二つの老い”の進行によってマンション管理が危うくなっている現状を描いている。まずは最近の話題である管理会社の契約更新拒否を持ってきた。マンション管理の主体は管理組合、しかし素人集団の住民だけでは立ち行かないため会計や清掃、修繕、管理員業務といったほとんどすべての管理を管理会社に委託しているマンションは多い。管理組合が管理会社を雇うのだから立場は組合側が強いと思われがちだが、それは過去の話。小規模で高経年などで管理費がかさみ、修繕積立金もさほどの多額に上らない管理組合は管理会社にとっての“うまみ”が少ないため見捨てられることが増えてきたというのである。素人集団がいまさら管理できるわけがない、代わりの管理会社を探すことになるが、これがなかなか見つからないことも少なくない。管理の手が届かず朽ちるままになるマンションの姿が浮かぶ。
このほか、マンション住民同士のコミュニケーション不全、それに伴う合意形成の困難さ、区分所有者の高齢化などによる管理組合役員のなり手不足、修繕積立金の不足による劣化したまま放置される建物や付属設備など解決策が容易には見えない課題を掘り起こしている。管理不全およびその予備軍を発見し、廃墟化を防ぐことが主目的の管理計画認定制度が昨年度から全国で本格的に始まったものの、まだ周知不足。区分所有者の管理に対する無関心が続けば、10年、20年後には街のあちこちにスラム化したマンションが林立するおぞましい光景が目に浮かぶ。それを避けるためにはまず管理組合が目覚めること、要は区分所有者の意識改革である。さらに行政の関与を深めること、指導、勧告、ある程度強制力を持たせることも視野に入れてよいのではないかと思われる。そして管理会社のコンプライアンスと社会貢献、管理組合を支援する我々マンション管理士のスキルアップ等々課題は山積している。
新聞社をやめてマンション管理士になったわたしとしてもなんとかお役に立ちたいと思い日々研鑚を重ねている。多くのマンション管理士が同様に努力している。そのことをもっと周知したいと思う。マンション管理という難しい問題を取り上げ、長期連載に取り組んだ朝日新聞の取材陣に感謝申し上げ、今後のさらなる展開を期待する次第である。